■朝日岳 MTB ■自転車旅行記へ
●2013年5月3日
このところの遠征登山では立て続けに悪天候にみまわれて散々な結果に終わっている(宮ノ浦岳、空木岳、光岳の記録参照)。しかし今回は、出発前の予報では晴れ又はくもりで降水確率も10〜30%と安定しており、やっとツキがまわってきたようだ。
今回は、昨年計画するも登山口までの林道が出発予定日までに除雪されなかったため断念した朝日連峰縦走に再度挑むことにした。古寺鉱泉から大朝日岳、竜王山を経て日暮沢へと周回するコースを山中1泊2日で計画。念のため、昨年はGW前半の日程で計画していたのを今年はGW後半に変えたが、古寺鉱泉に連絡を入れて確認したところ、4月中頃には既に除雪が済んでいたようだ。これで安心して出発できる。
GW後半初日ということで、電車の中(特に山形新幹線)はひどい混みようだった。 |
月山湖から先は両側を山に囲まれた谷あいの道となって風も弱まり、これでようやく走りやすくなった。しかしそれに取って代わるかのように、今度は雨が降ってきた。予報ではこの日は晴れだったはずだが…。 |
6時前になってようやく古寺鉱泉に着いた。何とか暗くなるまでに着くことができた。 |
●2013年5月4日
朝7時過ぎに古寺鉱泉を出発。昨日の雨は上がったものの、天気はあまり良くない。山スキー5人組は既に出発していた。トレースのついた雪の急斜面を登ると、積雪のない緩やかな尾根に出た。やがて辺り一面が雪となってきたので、標高1000mを過ぎたところでアイゼンを装着。
その後、ハナヌキ峰の南斜面という少し嫌なトラバースがある(右写真)。このところの降雪で消されてはいないかと心配していたが、先行のスキーヤーのトレースがあるので無事通過。 |
続いては古寺山への急な登り(左写真)。標高差300mを一気に登る。この間に森林限界に達するため樹木がなくなり、高度感を増す。天気は回復する見込みなく、時折冷たい雪が舞っているが、振り返るとふもとの山々が見下ろせる。 |
三人組を追い越し、小朝日岳への雪庇の張り出た急斜面を登る。古寺山の登りよりもさらに高度感を増し、トレースもほぼ消えている。 |
続いては小朝日岳からの急な下り。こちらは樹木があるので恐怖感はあまりないが、ずるずると滑るように急降下する。少し道を外して薮につっこんでしまい、自転車が引っ掛かって途中でもがくはめになった。特に、最後の鞍部に下りる部分が一番急だった。 |
無事鞍部に下りてホッと一息つく間もなく、右写真のような左手が崖っぷち&雪庇の急な登り返しである。 |
ようやく登り切った。ここから小屋まではあとわずかである。この辺りは常に風が吹きさらしになっているようで、地面の雪もほとんど飛ばされていた。 |
そしてようやく避難小屋に到着した。小屋は無人小屋と思っていたが、陽気なオヤジの管理人が出迎えてくれた。この日の宿泊者は12名(6名+3名+1名+1名+1名)であった。3人組はここへ来る途中で出会った老人グループである。先行していた4人組のスキーヤーは既に古寺鉱泉へ向けて下って行ったらしい。 |
小屋番のオヤジによるとGW中はずっと悪天候で、4月29日以来小屋まで来れた者は皆無であり大朝日岳には誰も登頂していないとの事だった。小屋から大朝日岳の山頂まではわずか15分であるが、どのみち風が強くてガスに覆われ展望も望めないし、今日は体力も使い果たしたため登頂は翌朝にすることにした。
この日の宿泊者全員が古寺鉱泉からの同じルートを来ており、翌日は4名が小屋に残り、2名が来た道を下山、老人3人組は当初は西朝日〜袖朝日〜針生平を縦走する積もりであったが連日の悪天候のためこれを断念、自分と同じ竜門山〜日暮沢へ下山するということであった。
その夜は一晩中、強烈な風が轟音を立てながら小屋を叩きつけた。長い一日であった。
【古寺鉱泉(7:10)〜ハナヌキ峰との鞍部(9:10)〜古寺山(10:45)〜小朝日岳(11:50)〜p1591(13:05)〜大朝日小屋(14:30)】
●2012年5月5日
翌朝は、今まで体験したことのないような強烈な吹雪になっていた。小屋の扉を開けて一歩外に出た瞬間、体ごと吹き飛ばされそうになった。風速は秒速30m、最大で40mくらいはあろうか。弱まる気配など全くない様子だ。外は一面ホワイトアウトで、どこから来たのかさえ分からない。 |
6時半。荷物は自転車だけで、小屋を出発。自転車を担いだ瞬間に風にあおられて、よろめいてしまった。まっすぐ歩けない。視界は全くないので、GPSを頼りに方向を見定めようとしたが、全く分からない。 |
7時20分、荒れ狂う嵐の中を再び出発。行くべき方向が分からず、5分以上小屋の近辺をウロウロしたが、それらしい窪みのある斜面を見つけて登り始めた。一面のホワイトアウトで足元の視界すらほとんどなく、やがて道形とおぼしき窪みも消えてなくなった。 |
山頂まで残り120mのところで、自転車を起こしただけで浮き上がってしまうような異常な突風が続いたため、5分間地面に伏せて待機。 |
帰りはさらに風の勢いが増した。本当に体ごと飛ばされるのではないかと感じるほどで、途中7分間ほど腹這いの姿勢で風が弱まるのを待った。その上、道も完全に外してしまった。GPSで現在位置が分かっても、どの方向に進めばいいのか判断できない。が、何とか8時10分に小屋に帰還。GPSがなければ永遠に山頂にも小屋にも辿り着けなかっただろう。
小屋に戻ると、ちょうど老人3人組が出発する準備をしていた。いくらなんでも、この天候では下山は無理だろう。案の定、10分もしないうちに小屋へと戻って来た。小屋を出てすぐのところで風に吹き飛ばされて、それ以上先に進めずに諦めたらしい。自分は急な下りでピッケルが使えるようにするため、自転車のホイールをザックに括りつけてフレームのみ担ぐための準備をした。
しばらくするとガスが晴れてきて、遠く海まで見えるようになった。しかし、相変わらず30m以上の強風は止まなかったが、皆、支度をして9時過ぎに一斉に出発していった。自分は、ホイールがうまいことザックに固定できず、少し遅れて出発した。 |
9時25分頃、比較的風が弱まったため体を起こして歩き出した。 |
もし突風でバランスを崩せば、100m以上一気に滑落してしまいかねないが、30分弱でようやく下り切って安堵する。(左写真は振り返ったところ。写真ではそんなに急勾配には見えないが、最大勾配30°ある。) |
ところが安堵したのも束の間、p1591前後の長い稜線が荒れ狂う暴風の通り道となっており、北から南へと抜けている。背中のホイールさえなければ辛うじて歩けるのだろうが、とにかく自転車が邪魔で仕方ない。全く、嵐の中で帆を立てているのと同じ状態なのだ。
風に対して体の向きが完全に背面になるようにして、フレームは両手で地面に押さえつけながら移動した。中腰になりながらカニ歩きという、かつてない姿勢での登山(サイクリング)である。
p1591の手前で、小さな岩(というより大きな石)があったので、ここで風が弱まるのを待った(右写真、大朝日岳を振り返ったところ)。自転車を地面に置いたが、体の一部で押さえつけておかないと風でずるずると滑って南側の谷へ落ちてしまう。 |
吹きさらしの稜線という最大の危機を脱して緊張感が解けたためか、小朝日岳への心臓破りの急な登り返しがあったが、それほど苦にならなかった。 |
右写真は、古寺山まで下ってきて後ろを振り返ったところ(左が小朝日岳、右が大朝日岳)であるが、さっきまでの嵐が嘘であるかのように上空に雲ひとつなく晴れあがっていた。 |
古寺山からの下り。よくこんな道を登ってきたなあと思えるほどの急な下りである。雪の下の空洞に足を取られることが多く、アイゼンが邪魔になってきたのでこの下り坂の途中で外した。 |
下ってきた道を振り返る。 |
ハナヌキ峰のトラバース。雪が固くなっていて、行きの時よりも通過しづらかった。 |
そして小屋を出て6時間45分振りに、古寺鉱泉に到着した。結局、下りにかかった時間は登りと大差なかった。それ以上に、登りよりもはるかに下りの方が厳しかった。耐風姿勢のままじっとしているのも辛いが、自転車が風であおられて全く前へ進めない時の絶望感と、体が浮き上がって飛ばされてしまう瞬間の恐怖感は別格である。もう二度と味わいたくない。今回もまた縦走は失敗したが、無事に生還できただけで満足だ。そもそも、GW中はずっと吹雪だったため、誰ひとり縦走はしていないはずだ。
古寺鉱泉でタクシーを待つ老人三人組と別れ、1時間かけて大井沢まで走り、予約していた旅館に宿泊した。長い一日であった。
【大朝日小屋(7:20)〜大朝日岳(7:50)〜大朝日小屋(8:10/9:05)〜p1769(9:30)〜p1591付近で突風により動けず(10:05/10:30)〜小朝日岳(11:35)〜古寺山(12:35/13:00)〜ハナヌキ峰との鞍部(14:20)〜古寺鉱泉(15:50/16:00)〜大井沢(17:00)】
朝日岳GPSログ