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●2008年2月9日

中国地方最高峰である大山は、日本海から僅か14kmに位置する独立峰であり、厳冬期になるとその標高からは想像できないほどの厳しい気象条件に晒される。2月9日、この日は強い冬型で各地で降雪があったが、大山口駅に着くと意外にも雨であった。ここから登山口の大山寺まで約13km、標高差800mの単調な舗装路の一本道が始まる。雨のおかげで山の姿は麓まで全く見えなかった。

しばらく走ると雨が雪に変わった。標高400mで路面が白くなり、標高500mまで達すると完全にアイスバーンと化す。除雪車がたまに行き交う以外は交通量は少ない。10%程度の勾配の坂道が続いたが、スパイクタイヤのおかげで滑ることなく進めた。休憩のためチャリから降りた途端、つるつる滑って転びそうになる。いくら登山靴でも自転車を降りて歩いて進むのはどうやら無理っぽい。もし、もう少し勾配が急で乗車できなくなったら、こんな所でアイゼンを装着するはめになったかもしれない。

登山口のある大山寺では、積雪は深い所で1m以上はある。ここで予約していた「山の店」に泊まる。他にも多くの宿が並んでいるが、スキー場があるおかげでどこもほぼ満室だった。

アイスバーンの舗装路をスパイクタイヤで行く

雪深い大山寺集落(標高800m付近)


●2008年2月10日

相変わらずの天気であられのような大粒の雪が激しく舞っていた。地元の人によれば、とりわけ悪天候でもなくこれでも標準的な天気だという。この日は、一日かけて大山寺から夏山登山道経由でピーク(標高1709mの弥山頂上)までを往復する予定で出発した。

登山道は最初は平坦に近い道から始まるがトレース幅が狭く、しょっぱなから自転車を持ち上げながら進むことになる。

夏山登山道を行く



5合目辺りで県警の救助訓練らしき部隊十数人とすれ違った。救助用のスノーボードを引っ張りながら急斜面を駆け下りてくる。「今日はここで遭難者が出たので注意するように。7合目から上は吹雪が強く自転車が飛ばされるかも知れない。」と忠告を受けた。

2時間ほどかけて6合目(標高1300m付近)の避難小屋に到着。小屋の外には行列が出来ていたので中に入るのはあきらめた。頂上へ行かずに6合目で引き返すグループもいた。ここまでは風も弱く比較的穏やかだったが、この先は急勾配になり強風が吹き荒れる。ゴーグルと目出帽を着用しても顔の皮膚が千切れそうなほど痛い。さらにトレースは一瞬の間に消え、数分前に通ったはずの足跡もない。何度も雪塊に足を突っ込んでは転げ、腰の高さまで埋もれては這い上がることを繰り返す。自転車を担いでいるので体力の消耗は半端ではない。

8合目に差し掛かると傾斜も緩やかな台地状になるが、一歩一歩が苦しい。標高は1600m付近。平坦に近い道なのに、可能な限りゆっくり歩いてみても5〜10歩で息切れしてしまい、全く前に進めない。頭痛もする。吹雪による体力の消耗の激しさを身をもって知った。トレースは完全に消え、まばらに立つ赤旗のポールのみが目印となる。ゴーグルを嵌めているとそれすら見えなくなるのでゴーグルを外して確認しようとするが、強風のため目を開けられない。仕方がないので風が弱まるまでじっとしている。いずれにしても風が強くなれば、担ぎあげた自転車が飛ばされそうになるので前には進めない。残り標高差100m足らずだったが全然前に進まず、いつ途中で引き返してもおかしくなかった。


8合目辺りで猛吹雪



やがて雪に埋まった避難小屋が現れた。頂上小屋に違いない。ということはこの付近に頂上があるはずだが、どこを向いても白一色で全く分からない。しばらく佇んでいると、数メートル前方に複数の人影を確認したので近づく。頂上はすぐそこだと言われ、示された方向へ向かう。帰り道を見失う恐れがあるため自転車を来た方向に倒しておき、ようやくピークを踏んだが視界は全くない。自分が立っている場所がどの位の広さなのかも分からない。2〜3分で折り返したが足跡はすっかり消え、辛うじて頂上小屋まで戻る。

頂上小屋は、小屋裏の換気窓まわりの雪が掘り下げられていて、タラップを伝って下に降りれるようになっている。内部は地下室のように真っ暗だが、風も寒気も侵入してこないため絶好の避難場所だ。他にも十数名の登山客がいる。自分もここで昼食。宿の朝飯の残りを詰め込んだ弁当は冷たく固くなっていてシャーベットを食っているみたいだ。

雪に埋もれた頂上小屋

大山頂上は足元の視界すら無かった

下山時は特に道迷いしやすいということで、小屋の中で知り合った3人組に同行させてもらうことにした。ゴーグルは曇るどころか既に凍ってしまって機能せず足元も全く見えないが、外しても目を全く開けていられないので、前方の人影を追いながら闇雲に下ることになる。それでもついていくことができず、何度か待ってもらう。ゴーグルをしなくても平気な人もいたけれど信じられない。ゴーグルの中に溜まった雪を払うために度々ゴーグルを外そうとするのだが、吹雪がもの凄い勢いで目に当たり、失明しそうなくらい痛くて自分はほんの一秒さえ我慢できない。

それでも時間的には、登りと比較にならないほどの短時間で6合目の避難小屋まで戻ってこれた。ここまで来ればもう安心だ。他の人達は元谷の方へ下って行ったため、一人で夏山登山道を下っていった。

頂上小屋の入口前で記念撮影

六合目避難小屋前にて
(迷彩服は自衛隊員の人達)

何事もなく大山寺まで戻るつもりだったが、右足と自転車の前輪が干渉してしまい、なんとスパイクタイヤをアイゼンの爪で踏みつけてバーストさせてしまった。前回の八ヶ岳に続き、まだ2回しか使用してない高級タイヤであるがもはや修理不可能でありショックである。少しは乗車して下れるかなと期待していたけれど、パンクのおかげで結局大山寺まで押して進むことになった。

宿に戻ってとりあえず布ガムテープなどを借りて応急処置を施し、時間が遅くなったのでもう一泊することにした。結局、自転車を背負うことはなく持参したピッケルも使用しなかった。

このゴツイ犬も登山した

無念の前輪パンクの状態で、大山寺まで戻ってきた


●2008年2月11日

三日日、この日は大山口駅まで下るのみだが、前日までとは打って変わって好天に包まれ、1シーズンに数日しかないような絶好の登山日和となった。昨日の猛吹雪が嘘みたいに、その全貌を麓からさらけ出している。なんとも悔しいが、さすがにもう一度登る気力は残っていない。それでも思う存分、冬山を体験できたので良かったと思っている。


下山翌日に晴天となり、姿を現す(大山寺より)

山陰線の車窓より

終わり


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