■五龍岳~鹿島槍ヶ岳縦走 MTB          ■自転車旅行記へ





●2015年8月12日(曇)


11時半、JR白馬駅から八方のゴンドラ乗り場へ向かう。ゴンドラからリフトを2回乗り継いで八方尾根に取付くルートだが、ゴンドラはともかくリフトに自転車を乗せたことがなかったのでここが最初の関門であった。もし持込みが駄目なら今回の山サイは企画倒れになる。あえて問合せしないで行ってみることにしたのだ。

きっぷ売場で大きい体重計のような秤があったので輪行袋のまま上に載せると、特に中身が何であるか問われるわけでもなく「15kg以下なので手回り料金は要りません」と言われた。ザックの方を足したら20kg超になるが、どうやら別々に扱ってくれるみたいだ。安心して1500円を払いゴンドラへ。ゴンドラ輪行もすでに5回以上経験している。続いて初めて乗るリフトだが、横一列4人乗り用のスキー用のリフトで地面すれすれを行く。ザックと輪行袋を乗せたらすでに幅一杯で固定用のバーだけでは自転車が落ちないか心配したが、乗ってみると思ったよりも安定していた。足に草がさらさらと擦れながら進んでいくさまはなかなか楽しかった。



アルペンクワッド


八方池山荘から先は一般観光客を含め凄い人だかりだった。自転車を組み立て、一般観光客の冷たい視線に耐えながら木道の遊歩道を自転車を押し歩く。遊歩道は八方池のあたりまでで、その先は一般客は減ったがそれでもなお人は多かった。そこから主稜線へ上がるまでの道も遊歩道の延長のようなもので楽勝だった。ここ最近、運動不足で太ってきていて体力も落ちたはずだが、今日のコースでは特に支障なかった。


    
(左) 八方池、(右)扇雪渓


15時23分、稜線上の唐松岳頂上小屋に到着。荷物をデポして唐松岳を往復してきた。自転車だけなので足取りは軽く、ゆっくり行っても往復40分かからなかった。天気は雲が多くて今一つだが、この後の二日間に比べれば全然悪くなかった。


    
(左)唐松岳への道 (右)唐松岳頂上


山小屋では夕食が4時半と早かった。部屋は心配していたほど混雑しなかったが、夜は例の如くイビキ合戦が繰り広げられた。自分は入眠障害のため、目を閉じたのは7時でも実際に寝たのは1時か2時。いつものことなのであまり気にしない。


●2015年8月13日(雨)



朝4時半起床。外を見ると濃霧が立ち込めていて、小屋スタッフが実に久々に雨が降ったと騒いでいる。天候に恵まれないのもいつものことなので、これもあまり気にしない。この雨のため予定を変更して下山するという人も多かったが、自分は朝食もとらず5時に出発。結局、この日唐松岳頂上山荘からキレット方面に向かったのは自分だけだったようだ。

唐松~五竜まではなだらかと思っていたが、《牛首》にかけての鎖場の急降下から始まり、いきなり緊張の連続。自転車はばらさなくても通過できたが、既に足の裏が痛くなった。靴のせいだろうか(紐ではなくワイヤーで締め付けるタイプだが、上手いこと締まらない)。


    
(左)(中)牛首への下り、(右)p2511から降りてくる人



大黒岳を過ぎ、7時15分、遠見尾根との分岐にあたる五竜山荘に到着。小屋の前には、テント泊でまだ出発前の人達などが4~5名いた。そこで最初に挨拶した人が、おととし(2013年正月)宮之浦岳で同じ小屋に泊まって色々と会話を交わした相手であることが分かり、あまりの偶然に驚いた。励ましの言葉をもらって再出発。


    
(左)五竜山荘を見下ろす (右)山荘より長野側を見る


ところが五竜山荘を過ぎると、五竜岳へかけての険しい岩の登りが続き、すぐに息切れするようになった。朝食を摂っていないからだろうと考え、薄皮あんぱんを食べようとしたが食欲がなくて喉の奥に入らない。むりやり水で流しこんだが1回につき1個が限度だった。しかし同じ状況で薄皮バナナクリームパンなら抵抗なく胃に入った。バテた時のことを考えると、同じパンでもあん系よりクリーム系の方が行動食に向いているようだ。そういえば、ハードな山登りにどら焼きを持って行って全く食せなかったこともある。



五竜への登り



結局、ペースは上がることなく最後の岩場で手こずり8時50分に山頂に着く。百名山自転車登頂47座目。見渡す限りガスで、人も2人しかいない。

ここで自転車を分解。ホイールを束ねてザックに括りつけ、残ったフレームだけを担ぐスタイルに切り換える。油圧ディスクのスペーサーは外れやすいのでガムテープで固定した。これで右手がある程度自由になる代わりに、当たり前だがザックの重量がすこぶる重くなる。五竜~八峰キレットまではこうやって分解しなければ通過できない。ただし、大キレットの時のようにフレームまで担ぐ必要はなかった。大キレットは完全に両手両足を使うので、ホイールだけ背負うやり方では無理だろう。


    
(左)五龍岳頂上 (右)ホイール背負い方式



五竜岳から先はギザギザの岩峰が連なる難所の連続で、もはやどこがどうだったか細部まで覚えていない。とりあえず先の行程のことは考えず、目の前の一歩のみを意識するようにしたが、結果的には小さなケガ一つせずに済んだので、これで正しかったということになろう。ただし、一回だけヒヤリとする場面があった。五竜岳からの最初の下りの鎖場で、左手に鎖を握りながら重心を右へずらし右足の次のステップを探っていたところ、右手で掴んでいた岩の一部が丸ごと剥がれてしまい、半宙吊り状態の恐怖を味わった。


    
(左)五龍岳からの下り (中)G4・G5付近 (右)北尾根ノ頭


    
(左)(中)(右)三段登りの辺り


弱い雨が降ったり止んだりしている。時々、反対方向から人がやってくる。半数くらいの人がヘルメットを被っていた。ノーヘル自転車は場違いのようだ。午前11時頃に赤抜付近で出会ったテント泊縦走スタイルの青年は、午前2時半に扇沢から出発して僅か8時間半でここまで来たと語っていた。すごい速さだ。自分は自転車を放り投げても、進むスピードは1.2倍くらいにしかならない。

自転車にとって容赦ない岩稜が続く。口ノ沢のコル辺りからは、歩いている時間よりも心拍を下げるために休憩している時間の方が長かった。終盤はコースタイムの倍近くかかっていただろう。やがて切り込んだ崖の上に建つキレット小屋が見えてきた。とても長い一日だった。

キレット小屋は要予約だと知らなかったが、宿泊させてもらえた。この日の宿泊者は盆休みの最中ながら定員の1/3にも満たなかった。夕食はボリュームのあるハンバーグで前の日よりも豪勢だと感じた。食欲も復活。足の裏はマメができる一歩手前だったので絆創膏を貼った。夜は昨日よりもひどいイビキ合戦。イビキ、寝言、おなら、10分たっても鳴り止まない時計のアラーム。途中で目を覚ました人も多かった。


  
(左)口ノ沢のコル~八峰キレット間の岩峰 (中)(右)キレット小屋



●2015年8月14日(雨)



朝4時半頃、目が覚めるとひどい雷雨だった。この状態でキレットを通過するのは危険極まりないが、予報も雨だし待機しても良くならないだろう。5時半頃、見切りをつけて出発。五竜方面へ向かう人はちらほらいたが、鹿島槍方面へは誰も行ってなかった。強い雨なのでザックカバーをつけようとしたが、下の写真の通りホイールが大きすぎてホイールをカバーするのがやっとで、ザックはほとんどカバーできなかった。案の定、中の荷物が濡れている。ザックにカバーをかけた状態でホイールをくくりつけるべきだったが、やり直すのが面倒なのでそのままにした。

心配していた八峰キレットだが、落ちたら間違いなく死ぬような壮絶な絶壁である。2014年8月14日にも、40代の会社員男性がザックにくくりつけた服が岩に引っ掛かり、150m墜落して死亡するという事故が起きている。しかし、鎖やハシゴで十分に整備されているため、さほど身の危険を感じるような所はなかった。昨日に比べて体力が回復しているのもあるだろう。昨日の五竜岳~キレット小屋までの方が断然苦しかった。

反対方向から降りてくる人と出会う。単独の男性で60歳前後くらい。午前0時に冷池山荘を出発して雨の中やってきたが、こんなに険しい道だとは思っていなかったそうだ。どうやら地図なしで、キレットの存在も知らずに来たらしい。稜線にも雷が落ちたらしく、岩に隠れて雷が通り過ぎるのを待ったそうだ。今日は五竜山荘まで行くと言っていたが、五竜岳までの道のりも同様に険しいことを伝えておいた。


  
(左)ザックカバーを装着 (中)八峰キレット (右)鹿島槍近辺は雷鳥が多かった


キレットを越えてしばらくすると天気が一時的に回復。鹿島槍の先端に多くの人がいるのが見える。しかし20分ほどで再び雲に隠れ、結局、種池山荘に到着するまで再び雨が降り続いた。吊尾根に到着したところで自転車を組み立てる。しかし鹿島槍の頂上までは岩場が続いたため、山頂で組み立てた方が良かったようだ。

8時に鹿島槍ヶ岳へ。48座目の百名山自転車登頂。下写真の通りにガスが濃く、誰もいなかった。5分ほど待ってみたが、逆に雨が本格的に降りだしたので山頂を後にして冷池山荘の方へ下る。


    
(左)縦走中唯一の晴れ間 (右)鹿島槍ヶ岳頂上



鹿島槍から先は下山するまでずっとなだらかな道が続いた。雨が降っていなければ快適な縦走路だったはずだ。9時半、冷池山荘。オレンジ色の腕章をつけた北アルプス遭対協の人に、自転車はいけないと注意される。利用者の多い小屋だと注意を受けることが多い。小屋の中にある休憩室で遅めの朝食。カップラーメンと賞味期限の切れた薄皮バナナクリームパン2個を食す。雨に打たれ続けて寒かったため、カップ麺が最高に美味かった。今回、用意した行動食のうち4分の3は食べずにそのまま持って帰ることになってしまった。カップ麺なら山小屋でも販売してるし、何も持たなくても良かったみたいだ。



冷池山荘にて


冷池山荘を出発。12時に爺ヶ岳を過ぎ、午後1時、宿泊予定の種池山荘に到着した。登山口に近いだけあってかなりの人で混み合っている。案の定、オレンジ腕章をつけた若いのがやってきて、皆がいる前で説教を始めた。こちらの話を聞く気は毛頭なく、一方的にお決まりの台詞(多分マニュアルがある)にてたたみかけてくる。必要以上に自転車を敵視しており、北アルプス全体から自転車を撲滅させようと躍起になっているみたいだ。言ってる内容は理不尽極まりないが素直に謝り、大勢の前で恥をかいたのでこの小屋は泊まるのは中止にして下ることにした。大金を払って説教を聞かされるのもアホらしい。


    
(左)爺ヶ岳頂上 (右)種池山荘


下山しはじめると皮肉なことに突然晴れだして暑くなってきた。今頃になって晴れていらんわいと憤りながら、岩の階段のような道を駆け降りる。標高差は1000mほどあるが特に急なところはなく、午後3時半に登山口の扇沢へ降りてきた。さて、今晩の宿泊場所をどこかで確保しなければならない。この時期なのでどこも満室だろうし最悪野宿も覚悟していたが、通りがかりの大町温泉郷の観光案内所に寄って尋ねてみたら、ホテルは全て満室だが民宿の空きがあるということで紹介してもらえた。そこから自転車で5分ほどの場所にある『ロッジ栗林』に宿泊。1泊2食つきで6500円と安く、温泉にも入れて食事も満足いくもので、今日のうちに下山して本当に正解だった。


    
(左)柏原新道 (右)ロッジ栗林にある白熊の剥製


その翌日は快晴。信濃大町駅から輪行する予定だったが、下山が前倒しになって時間的に余裕ができたのでココイチのある松本まで走ることにした。炎天下の中、2時間半かけて松本駅前のココイチへ。いつもはカロリーを気にして注文しないカツ系のカレーを注文し、歩くのもしんどいくらいに満腹になって満足して帰った。



手仕込チキンカツカレー4辛400g

おわり

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