■甲斐駒・仙丈ヶ岳 MTB          ■自転車旅行記へ

今思えば、完全な夏装備で出かけてしまった秋の3000m級の登山(まだ夏だと思っていたが、よく考えれば秋だった)。それでも前回の反省を生かし、靴下は厚手のものにした。前回は薄い靴下1枚で剱岳の早月尾根を下ったおかげで、左足の親指を含む5本の指の爪が根元から完全に剥れてしまった。今回はそういうことは免れたけれど、雨で靴下が濡れてしまったのでスパッツがあればいいと思った。またこの時期は、夕方になると冷え込むので、Tシャツと塗れた合羽では寒すぎた。最終日は日差しが強く、日焼け止めクリームは持ってきていたものの、塗り始めるタイミングが遅すぎた。一方、キンカンは全く使わなかった。持参する装備や使用するタイミングがあまりに適当だったと今回も反省。

●2008年9月20日

伊那市駅に11時30分到着。今回の登山道までのアプローチは、今までと比べると楽な方だ。距離は28km、標高差は400mに満たない。ほとんど汗を掻くこともなく2時間で登山口である標高1000mの橋本山荘に到着。この時点で、山荘の電話を借りて北沢峠付近の山小屋へ予約しようとあたってみたが、さすがに到着時刻が7時頃というのでは遅すぎると断られた。結局、橋本山荘に宿泊することに(予約なしだったのでここも最初は断られたが)。他に宿泊者もいなかったので、ここのお婆さんと長々と話をする。89歳(大正8年生)ときいて驚いたが、大変元気なご様子であられた。

【自転車 2時間】

美和湖 橋本山荘

●2008年9月21日

朝5時に出発。20分くらいは真っ暗なので、ライトを点灯させながら進む。山荘の裏から続いていた舗装路はすぐに終わり、ごつごつした石が敷き詰める河原歩きとなる。通り過ぎたばかり台風の影響はそれほどなかったが、それにしてもルートがはっきりしない歩きにくい河原道であり、自転車を何度も持ち上げたり下ろしたりしなければいけない。勾配の緩やかなほぼ平坦な道での担ぎは精神的にも辛い。この日は標高差1900mを登り詰めなければならないので、全然変わらない高度計の数値を見てると焦りが増してくる。結局、自転車を持っていることが大きな障害となり、半分近く乗れて時間短縮になるのではという甘い目論見は打ち砕かれ、河原歩きにコースタイム以上の時間をかけてしまった。

高度計の数値が標高1400mを超え、ようやく面倒な河原歩きに別れを告げる。と思ったものの、地図では分岐の目印となっている丹渓山荘がいつまでたっても現れてこない。随分昔に営業を廃止しているので取り壊されたのかも知れないが、それにしても綺麗に跡形もないことはないはずだ(実際は河原から離れた高台にあるらしい)。八丁坂への分岐を前に完全に進むべき方向が分からなくなった。それらしい分岐に一度進みかけたが、どうも違う雰囲気なので10分ほどで引き返してきた。しばらく地図と現況を照らし合わせて考え込むが、霧がかかっていて周囲の地形もはっきりせず、消去法で、一本のロープが垂れ下がった狭い垂直のガケのような道を選んだ。結局、この道で正しかったが、一瞬ながら道迷いの恐怖を味わった。

戸台川 これが八丁坂への分岐道

八丁坂の急登は、思ったほど大したことはなかった。高度も順調に稼げるし、自転車を担がなければいけないような足元の木の根や岩も少なく、里山にいるような気分で樹林帯の中を楽しく歩いた。南アルプス林道が開通して北沢峠までバスで行けるようになった今、戸台川〜八丁坂経由で登山する人はほとんどいない。9時55分、北沢峠の近くの大平山荘で初めて人の姿を見る。橋本山荘で貰った弁当を拡げ、20分の朝食休憩をとる。

雨がぽつぽつ降り始めたので、休む間もなく薮沢登山道を急ぐ。道はこれまでと違ってかなり急になり、半分以上は担ぎになる。11時過ぎ、とうとう激しい雨に捕まる。雷も轟き始め、12時50分、馬ノ瀬ヒュッテに駆け込む。小屋の中は全く人の気配がない。しばらく待機していたが、雷は徐々に遠ざかったので再び雨の中を歩き始める。13時50分、予約していた仙丈小屋に到着。歩いた距離もさることながら長い1日だった。

【登山・上り 8時間30分 (CT=8時間55分)】

雨の登山道 仙丈小屋から見上げる薮沢カール

●2008年9月22日

朝起きると雨は止んでいるものの視界が悪い。山頂で日の出を見るため既に小屋を発っている人が多かったが、どのみち今日は北沢峠までしか進めないので、ゆっくりすると決める。6時50分、ほぼ最後に小屋を発ち、比較的なだらかな岩稜を薮沢カールを巻くように進んで、7時15分に仙丈ケ岳の頂上に立つ。15分ほど待ってみたが視界は回復せず、これ以上いても体温を奪われるだけなので下山開始。

仙丈〜小仙丈に至る稜線で突然空が晴れてきたが、約10分ほどで元の視界に戻る。小仙丈ケ岳直前の登山道で雷鳥に行く手を阻まれる。仙丈小屋のオヤジ曰く南アルプスではここ最近は個体数を取り戻しつつあるらしいが、こんなにすぐに遭遇するとは思っていなかった。5分ほど待機していたら、やがて一斉に飛立っていった。

8時20分、小仙丈ケ岳。9時10分、大滝ノ頭。その後、雨が降ってくる。二合目から尾根を外れ、10時50分、北沢峠の駒仙小屋に辿り着く。雨の影響か、宿泊者はたったの4人。

仙丈〜小仙丈 間 ライチョウの群れ

【登山・上り 25分 (CT=30分) + 登山・下り 3時間20分(CT=2時間40分)】

●2008年9月23日

最終日は甲斐駒ヶ岳へ向けて5時出発。最初は緩やかな道が続くが沢を離れて急坂に転じ、登りきったところが仙水小屋(5時45分着)。小屋の前で小休止していると、ちょうど小屋から主人が出てきたので説教をくらうかなと思っていたら、ここで自転車を見るのは30年振りだとか言われた。その人は冬にテント泊・自転車という装備で黒戸尾根を越えてきたというから驚愕の一言。そういう貴重な話をたっぷり聞かせていただいた。時間があればもっと色々な話を聞けたのに残念。

仙水小屋を発ってしばらくすると、登山道は開けたガレ場に転じる。当然ここも自転車を担ぎっぱなし。この辺りから、右肩が擦れて出血しかかっていた。もっとぴったりフィットするシャツにしておけば良かったと、ここでも学習する。少しずらして担いだり、左肩で担ぐなどして、長いガレ場を通過する。6時30分、仙水峠(標高2264m)。西側の展望が開けていて全て雲海に覆われており、甲斐駒ヶ岳のピークに隣接する岩峰の"摩利支天"が迫っている。

ガレ場 仙水峠から摩利支天

仙水峠から駒津峰までは樹林帯の急登。所々展望が利いていて、迫るピークと眼下に遠くなる雲海、より遠くまで見渡せる山々等、高度の変化を楽しむ。思えば、久しぶりの晴れの日の登山だ。仙丈ケ岳も初めてその全貌を現した。

8時30分、標高2752mの駒津峰。360度の展望と、目の前に甲斐駒ヶ岳。あともう一息だが、肩の痛みが限界に近づいている。予想以上に時間がかかっているのは、疲労もあるからかも知れない。

仙丈ケ岳を振り返る 駒津峰から甲斐駒ヶ岳

駒津峰を過ぎてもハイマツ帯のアップダウンの激しい痩せ尾根が続き、ほぼ自転車を担ぎっぱなし。最後の岩稜帯は二手に分かれている。最初は時間短縮を狙って破線ルートの岩稜直登コースを進もうとしたが、最初の大きな岩で敗退。自転車を分解して背負えば行けたかも知れないが、そこまでの体力が残っていなかった。素直に巻き道の方を進む。滑りやすい砂礫の道だが、見た目ほどの険しさはなく、無理していけば半分位は自転車を担がなくても押し上げながら進むことができる。そんなことをしながらも、大勢の人に後方から抜かれていった。

10時20分、甲斐駒ヶ岳山頂。文句なしの展望。北・中央・南アルプス、八ヶ岳、そして鳳凰山の向こうに富士を眺める。11時下山開始。反対の黒戸尾根側には下りず、北沢峠に戻ることに。ただし駒津峰からは、双児山(標高2649m)を経由する尾根道のルートの方を選択。尾根道の方が険しいと思っていたが、こちらの方がジグザグを繰り返して降りるために傾斜が緩やかで、特に双児山を越えてからは全く自転車を担ぐことなく押したまま下ることが出来る。自転車で行くなら、登りもこちらを通ればはるかに楽だったはずだ。12時45分、駒津峰〜13時25分、双児山〜14児40分、北沢峠。南アルプススーパー林道はバス輪行、戸台から再び伊那市駅まで自走。ほどよく疲労感を味わえた4日間だった。

甲斐駒ヶ岳山頂から八ヶ岳・奥秩父方面 北沢峠

【登山・上り 5時間20分 (CT=4時間10分) + 登山・下り 3時間40分(CT=2時間50分)】

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