■甲武信ヶ岳〜雲取山縦走 MTB          ■自転車旅行記へ

今回このルートを計画したのは、全て小屋泊可能なロングコースという点が最も大きかった。二つの名山を結ぶ縦走路中には有名な雁坂峠があるし、長野から埼玉・山梨の県境を縦走して東京に抜けるというのも、長野・東京両方に住んだことのある自分にとっては面白い。ただ、この縦走路が調べてみると結構マイナールートらしく、この時期の記録がほとんどなかったため、雪の量などかなり不安が残ったままであった。その上、今回は予備日もない。ただし、山梨側へのエスケープルートが多数あるので、いざとなれば途中下山すればいいだろうと考えた。

2009年12月29日(曇り)

信濃川上駅を下車。登山口の毛木平まではフラットに近い登りが続くが、スパイクタイヤのお陰で全くスピードが出ず。ママチャリの方が速いかもしれない。立派な道にかかわらず交通量が全くないという点では快適だったが、とにかく寒かった。路面にアイスバーン状の雪が現れ出してから数百メートル走ると広い駐車場に着く。車も何台か停めてあった。

十文字峠までの登山道は積雪も少なく、最初の沢沿いの道で部分的に凍結していたものの、アイゼンの出番はなかった。十文字小屋での小屋泊まりは自分を含めて6名。テント泊が4名だった。

12:57 登山口の駐車場

15:17 十文字峠までの道

【信濃川上駅(10:50)〜毛木平(13:00)〜十文字峠(15:20)】

●2009年12月30日(曇り)

二日目は最も行程が短く、これまでになくゆっくりした出発となった。睡眠時間もたっぷり8時間半ほどとった。朝7時頃に朝食を済ませ、ようやく8時過ぎに出発の準備にかかり、アイゼンを装着する。この日、十文字小屋から甲武信岳へ向かったのは二人のみ。もう一人と共に小屋を同時に出発したが、徐々に離されていく。反対方向からは、誰も来なかった。

最初のピーク、大山の手前は急峻な鎖場。鎖にぶらさがるように登る。狭い頂上だが、展望は良い。そこからの下りは岩が多く、アイゼンでは歩きにくかった。三宝山は登りも下りも樹林帯。樹林から落ちた雪が登山道に積み重なるため、ところどころで結構深くなっている。雪は甲武信ヶ岳に近づくにつれて深くなり、新雪なのでよく沈む。先行者のトレースがなければ、かなり疲れていたに違いない。三宝山は隣の甲武信ヶ岳より少し高く埼玉県の最高峰であり、一等三角点が雪から頭を出していた。

9:02 大山直下の鎖場 12:48 甲武信ヶ岳の手前、沈む雪

そして甲武信ヶ岳山頂。他のルートから登ってきた人が集まっているかと思っていたが、誰もいなかった。周囲を見渡してみたが、期待したほどの遠望は得られず。休憩もそこそこに甲武信小屋へ向けて下る。

ゆっくり行動した一日だったが、それでも2時前には小屋に着いた。この辺りで40cmほどの積雪で、例年より少し多いらしい。小屋の宿泊者は15名くらい。話を聞く限り、翌日縦走するという人はおらず、縦走路は積雪も深いという噂だったので、少し不安になる。天気予報では冬型の気圧配置といっていた。行程も最長になるので、翌日に備え早めに寝る。

【十文字峠(8:15)〜大山(9:10)〜三宝山(12:20)〜甲武信ヶ岳(13:20)〜甲武信小屋(13:40)】

●2009年12月31日(晴れのち雪)

昼食用の弁当を受取り、7時に甲武信小屋を出発する。最初の木賊山は、時間短縮と体力温存のために巻き道を選んだが、雪が深くてほとんどMTBを担ぎ上げた状態だった。ピークを選んでいた方が楽だったかもしれない。10mほど先の登山道に鹿がいて、目が合うと逃げていった。

続く破風山の登りは、この日一番の急登。息を切らして登り、山頂へ。そこから先は花崗岩の露岩帯が続く尾根だが、ほとんど雪に埋もれている。時々、岩の隙間の空洞に足がはまりこんでしまうことがあるものの、雪のおかげで通りやすかった。

東破風山からの下りも雪をかきわけるように進んでいけた。雁坂嶺への登り返しで暗雲に巻かれ、南側から強い風が吹く。気温がかなり低いので寒い。雁坂嶺山頂で気付いたが、気温が低いためか昨日入れ替えたばかりのGPSの電池がもう切れかけていた。予備の電池はあと一組しかなく、ここから先はGPSをオフにする。雁坂嶺を過ぎると雪がばらつき始める。

そして雁坂峠。今までの樹林帯から一変して開け、特に山梨側の南斜面が延々と続いているさまに、この峠の奥深さを感じる。峠にはベンチや説明板、日本三大峠のプレートなどがある。峠から北方向に下ったところに雁坂小屋が営業しているはずだが、今回は時間短縮のため立ち寄らず。ベンチで昼食休憩できれば最高だっただろうが、風が強すぎて断念。先へ進む。

7:35 木賊山〜避難小屋の下り道

11:16 雁坂峠までくると急に開ける

甲武信小屋から続いていた単独者のトレースも雁坂峠までで、その先は獣の足跡のみになる。水晶岳の登りの途中で、休憩するようなスペースもなかったが、ここで昼食にする。弁当の中身はおにぎり2個だったが、上着の内ポケットに入れておいたので凍らずに済んだ。

古礼山(古札山)には巻き道もあったが、時間に余裕が出てきたのでピークを踏むことにする(一応、三角点もあるので)。山頂につくなり、そこにいた4頭のシカが慌てて斜面を駆け下りて行った。山頂からは遠く山梨盆地が霞んで見えた。

その先の燕山までは、狭くて歩きにくい道で自転車を担ぐことも多く、長く感じた。この途中で、高山病の症状なのかどうか知らないが頭痛がするようになった。

続く下りの途中でアイゼンを外し、やがて前方に雁峠を見下ろしながら下っていく。最後は、乗車したまま雁峠へ。

広い雪原となっている雁峠で少し休憩。ここまで来ると、笠取山が目前に姿を現す。よく見ると、登っている人の姿が見える。

13:24 古礼山〜燕山の長い尾根

14:21 雁峠を見下ろす

そのまま視界の開けた雪原が続く。なだらかな丘を越えると、笠取山方面から笠取小屋にかけてついているトレースと合流。ここにきて、しっかりしたトレースがついているのが意外だった。

笠取小屋に着いて驚いたが、車が二台停まっている。どうやら、山梨側からここまで林道が延びているらしい。自分と同じスパイクタイヤを履いたMTBが小屋の前に止めてあった。小屋のスタッフらしき若者が出てきて、自分のものだと言ったので、色々話を聞かせてもらった。雪でも走れるようにディスクブレーキにはなっているが、自分のMTBよりもさらに担ぐために特化した仕様になっていて、フルカーボンは当然のこと、軽量化のためアウターギアもFDも外されている。肩に担ぐよりも、もっと楽な担ぎ方があると、フレームの三角部分を首に入れて担ぐ方法を教えてもらった。

小屋を予約した時は、食事が用意できるかどうか分からないと言われたが、食事可能だった。宿泊者は4人。将藍峠方面から縦走してきたという人はいなかった。翌日の予定も、笠取山を往復する人とそのまま下山する人のみだった。小屋に着いてしばらくすると、激しい雪が降ってきて、明日のルートが少し不安になる。

16:17 笠取小屋へ着くと激しい降雪

【甲武信小屋(7:00)〜破風山(9:00)〜東破風山(9:35)〜雁坂嶺(10:45)〜雁坂峠(11:15)〜水晶山(12:15)〜古礼山(12:55)〜燕山(14:00)〜雁峠(14:25)〜笠取小屋(14:55)】

●2010年1月1日(晴れ)

この日は将藍小屋までなので、ゆっくりめの出発となった。将監峠まで山腹を行く巻き道もあるが、それではあまりにも早く目的地についてしまうので縦走ルートを通ることにし、まずは笠取山に向かう。意外にも、反対方向からやってくる複数の人間と出会った。どこからやってきたのかは分からないが、初日の出を笠取山の山頂で迎えたのだろう。

笠取山への登りにてアイゼンを装着。教えてもらった通り、フレームの三角部分に首を入れてMTBを担ぐ。周囲に木があったり、コケる恐れがある場所では、この担ぎ方はかなり危険だろう。ただ、今回のように障害が何もなければ、両手を離していても重心が取れるので、確かにこちらの方が楽な感じではある。笠取山は一本調子の急な登りだったので、頂上までこの担ぎ方で登り切った。

8:05 笠取山を見上げる 8:36 笠取山西峰より

そこから先の稜線上は再びトレースが消え、細々とした道が続く。針葉樹に囲まれた狭くて急な道で歩きにくい。アップダウンが多く、地図で見る標高差以上にしんどい道のりだ。最後の長い登りで山頂かと思ったら、まだ登りが続いていた。

苦労して到達した山頂は、狭くて暗いピーク。展望は木々に囲まれているため全くなく、三角点も雪の下のどこかに埋もれている。あまりに地味なピークのため、ここでは休憩する気が起きず、先に進む。

そこから先の下りも快適な道とは言えなかったが、標高1980m辺り、ちょうど富士山が正面に見える場所があったので昼食休憩する。

10:58 唐松尾山までの狭い縦走路 13:26 唐松尾山〜山ノ神土への下り

ようやく、山ノ神土で巻き道と合流。ここから、和名倉山方面への縦走路も延びている。あとは、将監峠までは楽な道。

将監峠は、山梨側が開けていて、ゲレンデのような斜面が延びている。雁峠と同じく、埼玉側へ下りる道はなさそうだ。よく見ると、ゲレンデの脇に林道のような道が付けられているので、これを辿っていくが、下方に見える小屋からどんどん離れていってしまい、峠まで引き戻すことに。乗車して下ってきた雪の道を、半分担ぎながら戻って来る。

結局、峠からそのまま斜面を下っていくのが小屋への正しい道。小屋は素泊まりで予約していたはずだが、誰もおらず、無人小屋なのかもしれないと思い、鍵のかかっていない建物の中へ入る。小屋の中で休憩していると、薪を運んだ老人が土間にあるストーブを点けにきた。今日は他には誰もいないと言っていたので、予約していなかったら鍵のかかった無人のままで中に入れなかっただろう。

夕方、男性が一人やってきて、小屋の宿泊者は二人となった。彼によれば、自分と同じく甲武信ヶ岳からの縦走で、この日は雁坂小屋から巻き道を使って縦走してきたそうだ。小屋が開いていなければ、テント泊をするつもりだったという。明日の予定を聞くと、やはり同じく雲取山荘へ向かうようで、これまで誰もいない心もとない縦走路であっただけに、心強く感じる。

14:02 将監峠より

【笠取小屋(7:30)〜笠取山(8:35)〜笠取山標高点(8:50)〜唐松尾山(11:55)〜山ノ神土(13:40)〜将監峠(14:00)〜将監小屋(14:20)】

●2010年1月2日(晴れ)

単独行の男性は、朝3時半頃から起きて朝食の準備をしていた。自分は昨晩のアルファ米4食分のレトルトカレーが原因で、寝ている間も食べ過ぎで苦しんでいたため、朝食どころではなかった(いつも朝食は摂ってないが)。男性は、暗闇の中、6時前に出発していった。まだ凍えるように寒い時間帯だ。それから30分後、日の出前くらいになって少し気温も上がってから、激しい胃もたれで気分の悪いまま、後を追うように出発した。

将監峠へは戻らず、小屋から縦走路へショートカットする道を選ぶ。急坂を登って縦走路に合流すると、ひたすら水平な巻き道だ。心配していた雪は昨日までと比べるとかなり少なく、反対側からだと緩い下りなので乗車できそうな位だ。最初は右手の樹木越しに展望が続いている快適な道だが、徐々に険しくなる。『山と高原地図』では、将監小屋から飛龍権現まで2時間20分とあるが、これは恐らく間違いで実際は1.5倍かかるという話を事前に聞いていた通り、3時間半かかった。飛龍権現の少し手前にあるハゲ岩からの展望が今回の縦走路中で最も素晴らしく、長い道のりでたまった疲れを忘れさせる。

飛龍権現の位置は、登山地図に書かれているよりも実際は南にある。ここから縦走路はようやく下りになるが、せっかくここまで来たので飛龍山のピークへ立ち寄ることにした。狭くて通りにくい道で、先行者のトレースもないが、あまり時間に余裕がないので急ぐ。ピークは展望がなく、三角点と山梨百名山の標柱で写真を撮ってすぐに折り返した。時間は登山地図のコースタイム通りで、飛龍権現から往復で40分だった。

7:09 将監峠から続く水平な巻き道 9:57 ハゲ岩より300°の展望

ようやく縦走路は下りになる。やがて、北天のタル付近で反対からやってくる人に出会う。縦走中に人に出会うのは、笠取山以来2回目だ。珍しいのでどこから来たのか聞いてみると、三條の湯を今朝出発してこれから飛龍山を登り、雲取山荘に泊まる予定だという。自分も雲取山荘に泊まる予定なので、一時間以上後ろに後続がいるとの事で、気持ちに余裕が出る。

しかも、三ツ山を過ぎてから徐々に乗車できる区間が長くなり、かなりコースタイムを短縮した。以前、軽アイゼンをつけたままペダルを漕いだことはあったが、慣れれば12本爪アイゼンでも全然いける。狼平付近では、登山道にいた十頭位のシカの群れが一目散に逃げて行った。雲取山の手前の鞍部まで来ると少し開けた場所でベンチも置いてあり、ここでようやく休憩をする。ここは三条ダルミと呼ばれる場所だが、またしても登山地図の位置が不正確のようで、実際はもっと東側にあった。三条ダルミ付近は雪が多いと聞いていたが、ほとんど積もっていなかった。

ところが、三条ダルミから雲取小屋へ直接向かう道は、雪がまだ多く積もっていて、トレースはあったが崩れかけているところもあり、少々危険な道だった。この道のせいなのか、今までの疲れがたまってきたのか、やたら調子が悪く、ゆっくりしか進めなくなった。コースタイムではわずか40分だったが、日当たりの悪い北斜面の暗い道で、いつまでたっても小屋に辿りつく気配がなかった。最後に、道をふさいでいるロープをまたぐと、小屋のすぐ横に出てきた。自分の来た方向には「立入禁止」と書かれていて、そのためのロープだったようだ。やはり雪が多くて危険だからだろう。結局、コースタイムの倍の時間をかけてしまったが、何とか雲取山荘に到着。無事、縦走を達成して安堵する。

13:38 三条ダルミ 13:59 三条ダルミ〜雲取山荘

雲取山荘は、これまでの人の少なさとはうって変わり、次から次へと来る宿泊客で賑わっていた。MTBを目立たない所へ隠し、予約していた小屋に入る。中では温かい甘酒をふるっていたので、四、五杯頂いた。個室の中は四人程度でゆったりしていたが、大きい小屋なのでとにかく人が多い。翌朝は早めに出発することに決める。

【将監小屋(6:25)〜ハゲ岩(9:55)〜飛龍山(10:30)〜北天のタル(11:30)〜三条ダルミ(13:35)〜雲取山荘(15:00)】

●2010年1月3日(晴れ)

殆どの宿泊客が小屋で食事をしている時間に出発。雲取山山頂までは30分の登りで、ちょうど日の出直後くらいに山頂に着く。山頂にはまだ数人しかおらず、赤く染まっていく景色をしばらく眺める。甲武信ヶ岳から三日かけて縦走してきた雲取山までの稜線が全て見通せる。ここは東京都最高峰(2017m)であり、東京・埼玉・山梨の県境でもある。

ここから先は、山梨・東京の県境尾根に沿って行く。防火帯のなだらかな下り坂であり、雪面が氷のように固くなっているので、スパイクタイヤを装着したMTBで快適に下っていける。早朝なので人も全く歩いていない。小雲取山から奥多摩小屋までの下りは自転車を降りて押さなければならないところはあるが、それ以外の殆どの区間は乗車できる。途中で雪が消えてきたので、アイゼンを外す。七ツ石山への登りは再び雪が積もっていたので、念のためアイゼンを着けた。雲取山から一時間足らずで、七ツ石山山頂へ。

7:00 雲取山から 7:04 雲取山の防火帯を快走

山頂で朝食を済ませ、石尾根へ向けて再出発。標高1400m付近から続く長い下りは、時たま出会うハイカーとのすれ違いの時を除けば、乗車率100%の超ロング山間ダウンヒル。十分すぎるほど満足した後、舗装路に出てきて、5日振りの下山。その後、奥多摩湖沿いの国道を一時間ほど走って、奥多摩駅に着く。電車に乗る前に、駅から5分ほど走ったところにある「もえぎの湯」という立派な温泉施設に立ち寄る。温泉は混雑すると聞いていたが、まだ10時過ぎで他の登山者が誰も下山していない時間帯なので、全く空いていた。6日振りの入浴でさっぱりした後、青梅線、中央線と乗り継いで東京駅から新幹線で帰ってきた。

8:44 乗車率100%の石尾根 9:05 下山

【雲取山荘(6:25)〜雲取山(6:55)〜七ツ石山(7:50)〜鴨沢登山口(9:05)〜奥多摩駅(9:55)】

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