■塩見〜北岳縦走 MTB ■自転車旅行記へ |
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●2007年8月15日 中山道を走り終えた直後から、旅の途中で垣間見えた中央アルプスの山々が強く印象に残っていて、次は日本アルプスを自転車で越えてみたいと考えるようになった。最初は乗鞍をロードレーサーで走るだけの計画を立てていたのだが、時間と共に次第にエスカレートして、ついにMTBを担いで南アルプス北部の3000m峰を繋いで縦走しようという途方もない案に至った。登山の経験は無いに等しい全くの素人が、初の日本アルプスに自転車を担いで単独行をするというのだから、周囲から良い反応が得られる筈もない。しかし、どんな理由で反対されようとも、「自転車でアルプス越え」という言葉の魅惑にはどうしても勝てない。当然、想定される身の危険に対して無防備であってはならない。万一、落雷や滑落といった場面に遭遇すれば、一瞬のうちに命を落としかねない。とにかく、山関連の本を読み漁って知識を得ることにも専念した。 初日、大きな失敗を犯す。鳥倉林道の途中で前輪がパンク。MTBを購入して以来の初パンクだ。川の水を汲んで修理を始めたが、バルブの根元が折れている事が判明。通常、こうした状態ではチューブを交換するよりほかに方法がないのだが、予備のチューブを持ってきていなかった。タイヤに空気がなければ、登山道を自転車を押して進むことすらできない。調べたところ大鹿村には自転車屋すらない。マウンテンバイクを扱っている自転車屋で一番近いところはどこか電話で問い合わせたら、名古屋だと言われて絶望的になった。この後は何度も空気を入れ直しながら進まざるを得なくなった。 この日は登山口から最も近い場所にある民宿「洸風荘」に泊まる。ここで民宿の主人に協力してもらって、ちぎれたバルブの応急処置を試行錯誤しながら施し、何とか山を降りるまで持たせることができた。夫婦で関東から移住して民宿を営んでおられるそうだが、色々と大変な地域なようで苦労されていた(詳しくはここでは書けません)。 |
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鳥倉林道でずっとついてきた犬 |
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●2007年8月16日 |
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三伏峠へ続く登山道 |
三伏峠(2560m) |
三伏峠 |
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10時半、いよいよ縦走路を踏み出す。ここからは未知の領域であり、期待と緊張が一気に高まる。やがてガスは濃くなり、足元は険しくなる。 |
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三伏山(2615m) |
本谷山(2658m) |
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午後2時、宿泊地の塩見小屋に到着。小屋からは、岩場を曝け出した塩見岳が目前に姿を現す。明日はこれを登るのか…と、思わず溜め息が出る。 |
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塩見小屋 |
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●2007年8月17日 |
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天狗岩を右に巻く |
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天狗岩を通過すれば、塩見岳の西峰を見上げる。登山口にいた阪大サイクリング部OBも、ここの登りが今回のルートで一番厳しいと言っていた。近くで見てみて、これはいけると確信した。 |
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塩見岳の岩場 |
巨大な岩が連続するが、ロープや鎖はない |
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コースタイム通り、6時40分西峰到達、展望良好。3座目の百名山MTB登頂である。一番の困難と思われる箇所を通過したので、登山ルートに対する不安はさっぱりと払拭できた。 |
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塩見岳(3047)より富士を望む |
東峰で自転車を持たせてくれと頼まれ… |
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ほとんどの登山者が塩見小屋へUターンしていくが、自分は熊ノ平に向かう稜線を歩いて行った。 |
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ライチョウ |
塩見岳を振り返る |
長い稜線を行く |
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北荒川岳の手前(p2719あたり)で、大阪弁丸出しの中年グループにつかまった。大声でしゃべる女性から「自分、こんなとこチャリンコできたんか、きちがいちゃうか」と呆れられた。「せっかくやさかい、大崩落をバックに記念写真とったげるわ」と言われ、一度は断ったが、なかば強引に自分の携帯カメラを奪い取って撮影していただいた。家に帰ってから確認したが、案の定、何も撮れていなかった。ひとしきり騒いだ後、「自分、ほんまアホやわ。ゆっとくけどこれはホメ言葉やしな。」と言って去って行った。 |
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北荒川岳の大崩落 |
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樹林帯に入ると、今度は風通しが悪くなるので尚更暑い。 |
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花畑を行く |
安部荒倉岳より間ノ岳、西農鳥を見る |
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●2007年8月18日 |
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三峰岳の稜線 |
三峰岳(2999)から間ノ岳を見る |
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8時半に間ノ岳に登頂。4座目の百名山MTB登頂。北岳から往復する人で、急に賑やかになった。自転車があるために、さすがに注目を浴びてしまう。霧の晴れ間に広がる壮大な眺めのおかげか、溜まっていた疲労も嘘のように消えていた。 |
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間ノ岳(3189) |
間ノ岳で記念撮影 |
間ノ岳を下る |
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9時45分、中間ピークの中白根山を通過。その後、北岳山荘で長休憩を取り、12時半、富士山に次ぐ国内標高第2位の北岳に登頂。5座目の百名山である。残念ながら、北岳山頂はガスの中であった。 |
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中白根山(3055) |
北岳山荘付近 |
北岳(3193) |
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北岳でゆっくり休憩した後、14時に肩ノ小屋へ到着。余力があったので、綺麗な小屋があるという白根御池まで下るかどうか迷ったが、結局ここで泊まることにした。この後襲ってきた夕立にも遭わずに済んだ。 |
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北岳を担いで下る |
北岳肩ノ小屋 |
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●2007年8月19日 最終日、3時に起床後小屋の外に出て、他の登山者と共に御来光を待つ。やがて真っ暗な闇の中、雲海と空との境界線上に一筋の赤い光が差し込む。こういう景色を見るのは初めてだ。時間はゆっくりと流れ、幻想的な空間を思う存分楽しむ。 |
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雲海に浮かぶ日の出と富士 |
雲海と鳳凰山 |
二日間、行動を共にした男性(右側) 写真も撮ってもらった |
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しばらく余韻に浸った後、5時40分、下山開始。途中の分岐では右俣コースをとり、大樺沢を下っていく。 9時半にようやく広河原に到着。この後、夜叉神峠を経て甲府まで走るつもりだったが、そもそも南アルプス林道は自転車通行禁止であり、ゲートの係員に止められたので奈良田経由で身延駅まで下る。下り始めてしばらくすると、ついに前輪が耐え切れなくなってパンク。肝心の空気入れのパーツが一部どこかへいってしまい、結局使えず。空気が抜けてグリップのない前輪を引きずって60km走り、駅に到着した。 |
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大樺沢の雪渓 |
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今回、好天にも恵まれて全てが順調だった。右足の親指に小さなマメができたくらいで、他は一切、カスリ傷一つ負わずに済んだのも運が良かったとしか言いようがない。自転車を山に持ち込んだことに対する周囲の反応も予想に反し、色んな方から親切にしていただいた。全てがここまで順調にいくとは限らないので、今後はもっと入念に計画をして、次の山行に備えたい。 |
終わり