■白馬岳 MTB          ■自転車旅行記へ

2011年5月3日(曇)

今年のGWは、夏は異常に登山者が多くて行く気のしない白馬岳に行くことに決めていた。最初は新潟県側の蓮華温泉からのアプローチを考えていたが、よく調べると温泉は営業しているのにそこへ至るまでの長い県道が全く除雪されていないらしく無理とわかり、登山口までの道路が除雪されている猿倉〜大雪渓コースと、道路の除雪はされていないがゴンドラ・ロープウェイが営業している栂池〜白馬大池コースを結んで縦走することにした。大雪渓は雪崩の危険性が高いのでなるべく通過時間を減らしたいことから下りに利用した方がいいだろう、ということで白馬駅からスキー客で賑わっている栂池高原のゴンドラ乗場までやってきた。


ただ、自転車を輪行してでもゴンドラに乗せて貰えるかという不安があった。石鎚山の時は事前に電話で問合せしてOKを貰っていたが、どうも調べたところ栂池パノラマウェイは入山管理が厳しいみたいで、問合せしたら断られそうだったのでさりげなく行ってみることにした。

事実、ロープウェイ乗場では入口に色々と注意書きがあり、登山届は絶対提出の事、装備が不十分な人や単独登山者は入山禁止とまで書いてある。さらにロープウェイを降りた後には遭難対策委員から安全面での指導があり、その後に入山許可となるらしい。

ところが実際は、登山届の記入内容も輪行袋の中身も全く問われることなく普通に乗車できた。遭難対策委員の人からも、自転車で大雪渓を下るのか、まあ気をつけてといった感じでこれといった説明もなく10秒ほどで終わった。全く有難いことだ。


初日は、ロープウェイを降りた所にある栂池ヒュッテに宿泊する。輪行していた自転車を組み立てるが、周りはスキーヤーやボーダーだらけなので明らかに浮いている。寝室はカーテンで仕切られた二段ベッドの置かれた半個室の相部屋だが、どちらかといえば山小屋というよりホテルという感じで、初日は贅沢に過ごす。

【白馬駅(11:35)〜栂池高原(12:20)〜栂池平(13:35)】

2011年5月4日(曇)


この日は白馬山荘までの長い道のりなので、ヒュッテを5時前に出発する。自分以外にも何人かの縦走者がいるはずだが、まだ誰も出ていないみたいだった。

天狗原に向けての標高差350mの急斜面をアイゼンの爪を効かせながらジグザグに登っていく。スキーやボードに適した斜面で至る所に滑降の跡が刻まれている。

天気は風も少なく雲の隙間から時折晴れ間が現れていたが、白馬岳へと続く西の方の稜線はガスに包まれて全く見えなかった。


一面雪に覆われた天狗原に出る。目の前に乗鞍岳が横に長く聳えていて、どこがピークなのか分からない。

乗鞍岳に向けての標高差250mの急斜面を今度は一直線に直登する。二歩ずつくらい進んではバイクを引き揚げる、の繰り返し。

とりあえず一番高い所(p2456)までやってくるが、そこから白馬大池の方へは灌木や岩が出ていて下れない。右の方にケルンがあったのでそちらへ導かれてみると、ここに乗鞍岳の山頂標識があった。


乗鞍岳

乗鞍岳から白馬大池まではなだらかな下り坂なので乗車して下る。

白馬大池も凍っていてその上に雪が積もっているので、乗車したまま横断できた。大池山荘の近くにテントが二つほど張ってある。対岸には新潟との県境となる稜線が見えている。しばらく池のほとりで朝食をとっていると、突如として強い風が吹いてきた。


斜面を登って稜線に出ると新潟側からの継続的な強風となった。

雪の上に映し出された雲の影が凄い速さで動いていく。やがてガスに包まれ、軽く吹雪くようになった。季節的にはもう冬型の気圧配置になることはないはずだが、日本海に近い三千メートル級の稜線にあってはごくありふれた風なのだろう。気圧の変化の影響で、高度計の数値が目まぐるしく上下している。

突風がくる度に、自転車をとばされそうになるため体ごと地面に伏せた。水は凍って飲めなくなった。冬用の帽子を持参していたので重宝したが、顔が凍傷になるかと思うほど痛かった。

このような状況の中、小蓮華山、三国境のピークを過ぎる。


小蓮華山

三国境

三国境を過ぎてから白馬岳に至るまでに、急な雪壁状の登りが二箇所ある。たまたま風が弱かったので無事通過できたが、こんなところで突風に吹かれたらたまったもんではない。

この急な登りを終えると白馬岳山頂。ここまできてようやく晴れてきた。風は依然として強いが、縦走路を振り返っても今までの悪天候が嘘のように上空に雲ひとつない。ただ、遠くの方はガスに覆われて遠望はあまり利かなかった。

登頂と同時にクライマーの3人組も東側の主稜を伝って登ってきた。南側を見下ろすと白馬山荘はすぐそこにあり、スキーヤーの姿も見える。


白馬岳山頂

白馬山荘で宿泊の受付をした。まだ午前中で、予定よりずいぶん早く着いてしまったが、残りは小屋の中で過ごすことにした。4月30日に2人の死者と1人の行方不明者を出した大雪渓での雪崩の直後ということもあり、GWにしては宿泊者は圧倒的に少なく10名程しかいなかった。

【栂池平(5:00)〜天狗原(5:55)〜乗鞍岳(6:55)〜白馬大池(7:10/7:25)〜p2612(8:20)〜小蓮華山(9:10/9:15)〜三国境(10:20)〜白馬岳(11:20/11:25)〜白馬山荘(11:35)】


2011年5月5日(晴)



この日は杓子岳、鑓ヶ岳、旭岳の三山をピークハントして、白馬山荘に戻ってもう一泊するという予定でいた。

天気は快晴で、朝から照り返しが強かった。周囲は一面の雲海で遠望もよく利き、遠くは富士山まで見えた。

←左端から杓子岳、白馬鑓ヶ岳、立山、剱岳
白馬鑓ヶ岳の少し右側に槍ヶ岳も小さく見える。

朝の冷え込みで雪が固まっているので、ゆるやかな下りは乗車したまま下れる。なかなか楽しい。


白馬岳を振り返ると険しい主稜が鋭く切れ落ちている。この角度から見る白馬岳が一番迫力がある。その向こう側の平坦なピークが昨日通過した小蓮華山、手前が明日下る予定の大雪渓ルートである。

まず最初の山、杓子岳に取り付く。そこそこ急な登りであるが、ここだけ雪が少なくジグザグの夏道が現れていたため、容易に杓子岳の山頂へ着いた。


杓子岳

その先、白馬鑓ヶ岳との鞍部手前から急斜面のトラバース道となっていて、雪もまだ氷のように固く、まともなトレースもない(アイゼンの爪痕があるだけ)。重い自転車を担いだ状態では足元のバランスをとるのが難しく、斜面が徐々に急になってきて次の一歩も踏み出せない状態になり、これ以上進めないと判断して戻ることにした。

ところが戻るにも簡単に体の向きを変えることができず、5分ほどかけてやっと体の向きを反転させたが、この間にも足元が滑って富山県側に滑ってしまうのではないかとヒヤヒヤした。

結局、他のルートも探ってみたもののここを通過する以外に方法はなく、白馬鑓ヶ岳は諦めることにした。


これで完全に意気消沈。三つめの旭岳も自転車を担いだ状態では下りが危険、ということで途中まで登ったところで登頂を断念した。(右写真が断念ポイント)

上を見あげると、三人組の山岳スキーヤーが旭岳の山頂から清水谷にかけての南側斜面を颯爽と滑降していく。自分は勾配が15度以下になってようやく自転車にまたがることができたが、しばらく進むと気温が上がって融けだした雪に前輪が沈んでしまい10mも進まないうちに転んでしまった。なんという差であろうか、とてもみじめな思いだ。


ふと、こんな状態で明日大雪渓を下ることができるのかという懸念が浮かび上がる。それで、白馬山荘に戻る前に、自転車をその辺にデポしておいて、偵察がてら空荷で大雪渓を途中まで降りてみることにした。

大雪渓は想像していた以上に急な坂道で、標高200mほど下がってみたが、その先はさらに傾斜が落ちているため前方が見えなくなっている。登り返しが面倒なのでそこまでは行かずに引き返したが、もう決断はできていた。自転車を担いだ状態ではとても無理だ、諦めて栂池へのルートを引き返そう。

ところが小屋へ戻ってから、栂池パノラマウェイの営業がこの日の午後3時40分が最終で翌日からは長い運休期間に入ってしまうということが判明した。時計を見ると11時半。今から走ったとしても、ぎりぎり間に合わない(そんな体力あるわけないが)。つまり、嫌でも自転車を担いで大雪渓を下らなければならないということになった。


この日の宿泊者も少なく、11名だった。スキー7人、ボード1人、登山2人、自転車1人。道中で見かけたスタイルの比率も、自転車を除けばこんな感じだった。

ちなみに、スキーヤーの滑降ルートは、大雪渓は登りのみに使用、清水谷・杓子沢・白馬鑓温泉等の別ルートを下るという人が多かった。ベテランの山岳スキーヤーからしてみれば、大雪渓はインパクトの弱いエスケープルートに過ぎないらしい。


【白馬山荘(6:25)〜杓子岳(7:30)〜白馬鑓ヶ岳断念(8:05)〜旭岳断念(10:10)〜小雪渓ALT2550(10:50)〜白馬山荘(11:30)】


2011年5月6日(晴)


いろいろと思案した結果、ホイールのみをザックの後ろに担ぎ、サドルとペダルを外して軽くしたフレームを首に下げて運ぶというスタイルに決めた。こうすればバランスもさほど悪くないし、両手が空くためピッケルも自由に使える。八ヶ岳、富士山、剱、大キレットでも自転車を背負ったが、フレームごと背負っていたのでバランスは悪かったし、特に下りで車体を地面にぶつけることが多いので後ろ向きに下る場面が多かった。今回はその点を改善した。

ホイールはなるべく重心が上になるように、またザックから離れないよう密着して固定した。ホイールのみだと重量も軽いため、固定するのに別に結束バンドを用意しなくてもザックに付属しているヒモだけで十分だ。

天気は昨日と同じ快晴。条件は万全であり、7時前に出発する。


葱平(ねぶかっぴら)と呼ばれる部分が最も急な坂道で、夏は雪渓も途切れて階段状の道が整備されているらしいが、残雪期にあっては雪面を直降することになる。

この標高2400〜2200mまでの平均斜度が約35度。山岳スキーヤー・ボーダーにしてみれば屁みたいなもんらしいが、雪慣れしていない自分にとっては体感斜度が50度以上に感じられて結構辛かった。ピッケルがなければ何度か転倒(もしくは滑落)していただろう。反対側からすれ違うスキーヤーはこの勾配をシール歩行で難なく登っていく。

下の方に見えているのが、死傷者を出した例の雪崩によるデブリである。相当な広範囲にわたっていて、大規模な雪崩であったことが窺える。


デブリを避けながら勾配の緩くなった雪渓を下っていくと、標高2000m辺りの遺体発見現場に4本のスコップが束ねられて遭難碑のように立っている。ここから上を見上げると、事故以後に生じたと思われる二号雪渓からの雪崩も同じ場所へ流れ込んでいて、この辺りが一番の危険地帯であることが分かる。通常は大雪渓の雪崩は4月中に治まるものらしいが、今年は残雪が多いこと、荒れた天気が続き1m程の降雪があった直後であったこと、夕刻という時刻などが災いしたと考えられる。

勾配も緩くなってきたので、ここで自転車を組み立てることにした。


そこから先は勾配が15度前後となり、標高1800m以下で乗車に適した斜面になる。しかしもう時間が9時を過ぎていて雪がやわらかくなり始め、やがて前輪が潜ってしまうようになった。白馬尻から猿倉荘まではほとんど乗車できず、バイクを押して歩いた。もし雪がもっと固ければ標高1800m以下での乗車率は100%近かっただろう。

猿倉からは舗装路の下りが駅まで続く。スパイクタイヤなのでトロトロ走る。行きと同じ白馬駅でアイゼンを外し、ここから輪行とした。


天候にも恵まれ雪のコンディションも良く、結果的に大雪渓を下って正解だったが、自分の技量不足に不満の残る内容だった。あとこれを言ったら負けになってしまいそうだが、自転車で行くならスキーかボードを担いで行った方が100倍楽しいだろうというのが本音である。


【白馬山荘(6:55)〜葱平ALT2400(7:35)〜大雪渓ALT2000(9:00/9:20)〜白馬尻(9:55)〜猿倉荘(10:40)〜白馬駅(11:20)】


カシミール3Dにより作成
inserted by FC2 system