■土蔵岳 MTB          ■自転車旅行記へ

2011年4月16日〜17日(晴)

土蔵岳は滋賀と岐阜の県境にある山で、ブッシュがひどく残雪期でないと非常に困難らしい。また、滋賀県側からのルートが取りにくいので今回は岐阜県側からアプローチすることにしたが、行程も長くなり日帰りではとても無理なため前夜泊することにした。

初日は木ノ本駅から国道303号の金居原バイパスを通って八草トンネルを超え、夜叉ヶ池への分岐となる川上集落にある旅館『夜叉姫の館』で一泊する。滋賀側は金糞岳や横山岳など一部の山を除いてほぼ全ての雪が消えていたのに対し、こちらはまだ見渡す限りの山々に豊富な残雪が見られる。

翌日、旅館のすぐ隣にある夜叉龍神社から登り始める。どこから取り付けばよいのか迷ったが、生コンのプラントの手前から左手斜面に入ってみると微かな踏み跡が延びているのを確認。踏み跡は急斜面をジグザグに切り返しながら細々と続いていて、足元が滑らないようにこれを辿る。

しばらくすると傾斜がゆるくなり、残雪も現れ出した。トレースらしき跡は全く無いようだが、雪は固く締まっているので上を歩いても全く沈まない。スノーシューを持参してきたが、全く不要だった。

次第に所々展望も現れ、蕎麦粒山、湧谷山のピークを逆光の中に振り返り、白く輝く金糞岳を左手に見る。


やがて進行方向が変わって南斜面の尾根になると、日当たりの影響なのか雪がなくなると同時に濃密なブッシュが現れた。樹木が隙間なくはびこり、自分の体よりも自転車を通過させるのに圧倒的に時間を取られた。一度枝にからまると多少押したり引いたりしたところでびくともせず、渾身の力で引っ張らないと脱出できない。


再び進行方向が北から西になると、元通りの残雪の尾根に戻ってブッシュから解放される。

その後は山頂に向けて一気に登りつめるが、相変わらず雪が固くてアイゼン装着が必要になる。持参したのは6本爪だが、できれば12本爪が欲しいくらいだ。

これでも深い雪があるおかげで普通に進めるが、おそらく雪の下は先ほどの状態に近いブッシュが潜んでいて、雪のない時期は相当困難なはずだ。

大ダワ

やがて広い台地状に出た。二等三角点大ダワの頂上であり、北側は樹木越しになってしまうが、金糞岳を中心とした南〜東にかけての展望が抜群である。

この大ダワは琵琶湖も見下ろせる位置にあるものの、県境よりも東に位置しているため完全に奥美濃の山である。湖北も相当雪深いが、岐阜県境を跨ぐと更に別世界の感がある。奥美濃は興味深いエリアではあるが、アプローチが遠く湖北以上に厳しい山が多いので、登頂する機会はなかなか得られないだろう…。


大ダワから土蔵岳へかけての縦走路を進む。発達した雪庇の根元にはクラックが走り、その直下にはところどころ空洞ができている。

右写真でも分かるように、一見、延々と続く人の踏み跡のように見えるのが雪崩前兆のクラックである。雪は朝の冷え込みで固まっているため、さほど危険は感じない。

土蔵岳

縦走路はなだらかに高度を下げ、ほとんど登り返しのないまま気がつけば土蔵岳の山頂へ。大ダワから僅か40分で着いた。

山頂は木々に囲まれていて今回の三山の中では最も展望に恵まれないが、少しだけ切り開かれた所から金糞岳と白倉岳を見ることができる。何度も見慣れた山ではあるが、こうして真裏から見るのは初めてなので、別の山を眺めているような錯覚になる。

南側には山スキーに適した斜面が広がっている。登る人の大半が冬期〜残雪期であり、尾根の形状も複雑で迷いやすく、遭難の多い山である。

時刻を見るとまだ9時前なので、予定通り猫ヶ洞を往復することにした。土蔵岳〜猫ヶ洞は特にひどいブッシュのため、積雪期でなければ無理とされるコースである。

土蔵岳から約10分で見晴らしの良い場所に出た(下写真)。左手に琵琶湖と横山岳、正面に猫ヶ洞、右手に烏帽子山、千回沢山、白山、姥ヶ岳、そして後方に大ダワ、土蔵岳、金糞岳を振り返る。

雪が少なければ、シャクナゲのジャングルが行く手を阻んでしまうらしいが、実際はブナの間を行く歩きやすい尾根だった。もう4月半ば過ぎなのだが、今年の異常な雪の多さに助けられたようだ。特に山頂付近の県境尾根は、巨大な雪の塊が数メートルの壁となって積もっている。


猫ヶ洞の山頂。三角点のある場所は、左写真のように5メートル程積み上がった雪庇となっている。

猫ヶ洞のピークで県境尾根は西へ折れ、横山岳が正面に大きく据わっている。展望はこの県境を50メートルほど行き過ぎた場所の方が良く、左千方、三国岳、三周ヶ岳が初めて姿を現す。

湖北側から眺めた時と違い、三国岳と左千方は目立たない平凡ピークに過ぎず、三周ヶ岳が最も存在感のある山容を示し、黒壁が大人しく見える。見る角度によって、山の印象は随分と変わるものだ。

左千方にかけて続いている県境尾根は、まだまだ遥かに遠い道のりである。縦走するには幕営が必要だ。しかも、すぐ先で雪庇が下に切れ落ちたようになっており、とても縦走できそうにない。


展望を満足したら土蔵岳へ引き返す。猫ヶ洞のすぐ南側のコブでは、能郷白山がよく見えた。

この日に人と出会ったのは、土蔵岳の山頂に戻った時にいた三人のグループのみ。愛知や岐阜方面からやって来て、夜叉龍神社からの往復ということだった。自分は滋賀県側へ降りる積もりだと言うと、そんなルートが存在するのかという感じだった。この辺りの山域に関西人が出没すること自体、稀なのかもしれない。鈴鹿ですら殆どの登山者が愛知、三重、岐阜方面からである。

時計を見るとまだ午前10時半なので、予定通り滋賀側へ向けて土蔵岳を出発する。山頂の南側は上原谷、砥石谷へかけて山スキーに適した斜面が拡がっている。その斜面を左手に、正面に金糞岳を眺めながら、猫ヶ洞から続く県境尾根をそのまま南下して行く。


p937のジャンクションピークで県境から離れ南西尾根を下ると、樹木に遮られて今までのように見晴らしが利かなくなった。標高500mまで下ると残雪がなくなり、しばらく明瞭な踏み跡が続いているかと思えば、突然激しい薮が現れて通りにくくなる。

尾根はなだらかなので、通過困難な所はあっても危険な箇所はない。無雪期でも通れないことはなさそうだが、雪の下の薮を思えばかなり大変だろう。道際に数輪のイワウチワが咲いている以外は、全くの殺風景な尾根だった。


山の中から旧国道に出る直前に、何やら見慣れない建造物があった。半世紀以上前までは鉱山があった場所でもあることから(土倉鉱山)、その遺構と思われる。中を覗いてみると、錆びついたタラップで下に降りれるようになっていて、ここを起点に水路のようなものが延びているが、これが炭鉱路であろうか。

予定よりずいぶん早く、土倉谷と登谷の出合いの旧国道303号に下山してきた。旧道には集落もないため通常は使われず冬期も除雪されないが、この辺りの道路上の雪は全て融けていた。

金居原の集落からはJCTピークを振り返り、杉野集落から横山岳を眺め、まだ残雪が多く残っているのを確認しつつ、今シーズンの湖北の雪山を締めくくることとした。来年こそはいよいよ、近江百山最難関の山、三国岳(敗退記)に挑みたいと思う。

【夜叉龍神社(5:35)〜p788(6:50)〜大ダワ(8:00)〜土蔵岳(8:40/8:45)〜猫ヶ洞(9:30/9:55)〜土蔵岳(10:25/10:35)〜p925(11:15/11:25)〜旧国道・土倉鉱山跡(12:45)】

カシミール3Dにより作成
inserted by FC2 system